『もののけ姫』のラストで、シシ神が巨大な姿に変容するシーン、印象に残りますよね。
あの「デイダラボッチ」、実は宮崎駿が作り上げたキャラクターではありません
実は日本の各地に、何百年も前から語り継がれる伝説が残っているものなのです。
日本各地に残る「巨人」の伝説
デイダラボッチは、地域によって「ダイダラボッチ」「大太郎法師」「デーラボッチャ」など様々な名前で呼ばれています。
この伝説を最初に体系的に記録したのが、民俗学者の柳田國男です。1910年刊行の『遠野物語』などで、東北から関東にかけて広く伝わる巨人の話として紹介しました。
伝説の内容はこんな感じです。
途方もなく大きな巨人が、山や湖をつくった。
日本を代表する山である富士山と筑波山は、巨人が天秤棒で土を運んだときにこぼれ落ちてできたと言われています。
また、琵琶湖は、巨人が土を掘り取った跡だとも。
他にも巨人の足跡が沼になった、という話も関東の各地に残っています。「ダイダラ池」「大太郎山」といった地名も、各地に残っています。
興味深いのは、この伝説の地理的な分布です。東北・関東・東海に集中していて、西日本にはほとんど伝わっていないのですよね。なぜ東日本だけなのか、実はまだはっきりとした答えはないのですが、地域で広がっていた話であるというのは気になるポイントです。
宮崎駿監督は何を変えたのか
映画のシシ神と伝説のデイダラボッチ、似ているところもありますが、異なるところもあります。
共通点は、「自然の化身」という本質部分です。
巨大な自然そのものを体現する存在、というイメージは伝説とよく一致しています。また、夜になると巨人の姿に変容するという描写も、「夜に動き出す」という各地の伝承と重なります。
大きく変えたところは、意思の有無です。
伝説のデイダラボッチは、善でも悪でもありません。ただ「巨大にそこにいる」存在だといいます。
しかし、映画のシシ神は、人間の行為に反応して怒り、破壊をもたらす意思を持つ神として描かれていました。
また、昼は鹿の姿をしているという設定も、民俗伝説には登場しません。「自然の畏敬」という核心は受け継ぎながら、映画的な物語として再構築した、というのが宮崎駿監督が加えた表現だと言えるでしょう。
伝説が生まれた理由
なぜこんな伝説が生まれたのでしょうか。
おそらく、地形を説明するためだったと考えられています。
富士山や琵琶湖のような巨大な地形が、なぜここにあるのか。文字も地質学もなかった時代、人々が出した答えが「巨人が作った」だったのかもしれません。
似たような発想は世界中にあります。北欧神話の巨人族が山や海を作ったという伝説などがその一例です。どの文化においても、人間では到底なしえないものを見た時に、「巨大な何か」を想像したのだと思います。
伝説から古代の人々の感覚を感じられるのは、とても興味深いですよね。